未来のデイリーライフ

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2023年GWの泊まりツーリング その②

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コメットさんと写真を撮って遊んだ余韻に浸りつつも、宿へ向かう僕は不安でいっぱいだった。

今回、初めて民宿を予約していたからである。

 

知っているような知らないような上田市のバイパスを抜け、ナビの音声案内に従って橋を渡り山側へ。いかにも抜け道といった感じの、車だと慣れてないと気を使う狭さの川沿いの道を辿り、行きに通った道の駅は通過せずにビーナスライン美ヶ原高原の北側、国道254号まで戻ってきた。この国道から1本山中に入った所に今日の宿『霊泉寺温泉』がある。

『国道沿いに鹿教湯温泉って看板は見たことがるけど、霊泉寺温泉は見た事がない。何処に分岐があったのやら』

ナビをセットしているので、曲がる所を見落とす事はない。とはいえ何回か通っている道なのに全く知らなかった温泉の名前を探しながら慎重に進むと、確かにあった。

『左折1600m 霊泉寺温泉』

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これはびっくりだ、しっかり看板が出ていたし、石碑や説明とかがあるあたり由緒のある場所なのだろう。道は山間に向かって伸びていて、温泉街どころか集落があるようにすら見えない。丁度半年前に行った銀山温泉も、『銀山温泉はコチラ』と書かれた看板の先に、本当にあるんか?という道を進んだが、今日もいい勝負だ。山、小川、水田、ぽつぽつある民家、当然のように車一台分の幅になった道を進む。そのまま通り抜けてしまって松本の街に抜けてしまうのではと思ってしまう。しかしこまめに置かれた白い看板が、霊泉寺温泉まであと600m、400m、200mだと教えてくれる。最後に赤い橋とお寺の立派な土屏が現れると、ナビゲーションが目的地に着いたと教えてくれた。宿をネットで予約する際に写真で見た通り、古き良き温泉街という感じだ。こういう所に一度泊まってみたかったからちょっとワクワクするが、民宿の人と上手く喋れるだろうかとドキドキもある。

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民宿手前でエンジンを切り、残り数メートルをえっちらおっちらバイクを押していくと、ガラガラと引き戸が開いておばあちゃんが現れた。

『お客さん??屋根あるからこっち停めてねぇ、案内するわ』

『雨大変だったしょ、バイクが物語っとるね』

あ、どうやら僕は無駄な心配をしていたようだ。

案内してもらった広い屋根の下で、ヘルメットを脱ぎ、帽子を被り直して、リュックを下ろし、サイドバッグを開けて荷物を移そうとする。そんなライダーの儀式じみた長い動作を知ってか知らずか、おばあちゃんはさっさと出てきた建物に帰っていっていた。何度もバイクと部屋を行き来するのも面倒なので、荷物をまとめてからチェックインするつもりだったが、待たせるのも悪いと思ってリュックを背負い直し、ヘルメットを持って宿の入り口へと向かった。

開けたままにしておいてくれたであろう玄関の引き戸を潜ると、木彫りの熊だとか鹿の剥製だとかそういうものはなく、テーブルと大きなテレビが目に入った。

(これはご飯を食べる所だな)

明日の朝起きて階段を降りてきたら、テレビが付いていてこのテーブルにご飯、味噌汁、焼き魚、温泉卵とか諸々が並んでいる情景が目に浮かぶ。多分早起きのおじさんとかが新聞片手にお先に食べ始めている。にしても玄関で食べるのか、食べてる時に他の人が入ってきたりしたらちょっと気まずそう。と思うのはさておき、右側ではカウンターで先程のおばあちゃんが待っている。出された紙に名前や電話番号を書きながら、夕食は30分後で良いかとか、外の共同浴場の説明とか聞く。そのままシームレスに館内の案内が始まる。どうも今日は自分以外に2組はお客さんがいそうだ。風呂場が大小ふたつ、トイレは一階のみ、食事は予想通り玄関のテーブル。2階に上がって今日の部屋に連れて行ってもらったところで解散。おばあちゃんはご飯を作りに降りて行った。

 

広い部屋だ。布団が初めから敷かれていて、籠にバスタオルや浴衣が綺麗に畳まれて置いてある。1人で贅沢に使えるスペースの奥にはお決まりの『謎スペース』もちゃんとある。
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改めてバイクから荷物をまとめて持ち込んで、謎スペースの座椅子に座ると、聞こえてくるのは川のせせらぎだけだった。あとは鳥の鳴き声。国道から離れて真っ直ぐ奥へ奥へと来たなとは思ったけど、車が走る音なんて一切聞こえない。それこそ上高地乗鞍岳に行った時を思い出すような、車の喧騒が一切ない場所だった。こんなに静かな場所に泊まるのは初めてかも知れない。

 

本当に『一息』ついたくらいで、時計を見ると約束の6時半になっていた。チェックインが6時でご飯の用意が6時半と思えば当然でもあるか。

部屋を出て、ドアの部に鍵を差し込んで捻るが回らない。壊れているのかな?何回抜き差ししても鍵がかかる様子がない。もしや。部屋側のドアの部の内側に押しボタンがある。それを押し込んで引っ込めてから外に出て扉を閉める。バタンと聞き慣れた音で扉は閉まったが、ドアの部を捻ってももう扉は開かなかった。やっぱり昔の軽トラ方式か、鍵をかってから閉めて、開ける時にだけ鍵を差し込む。軽トラ閉め方を覚えていて助かった。

 

1回に降りると、入ってきた時に目が留まった玄関正面の『特等席』におかずが並べられて、隣のテーブルでおばあちゃんが待っていた。

『中々来んからどこいったかしゃんと思った』

どうやら6時半前に用意はできていたらしい。

おひつを開けるとお赤飯が現れる。楽天トラベルで予約する時にちらりと目についたレビューにも、お赤飯がでてきたと書いてあった事を思い出す。まさか何でもなさそうなのに今日も出てくるとは。焼き魚にローストビーフ、サラダ、酢の物、山菜の天ぷら。特に山菜の天ぷらは見たことのないサイズのものが皿に並んでいる。名前を教えてもらったけど『うど』と『タラの芽』くらいしか覚えられなかった。何となく聞き覚えはあったのだけど。この山菜たち、山道の葉っぱを小枝ごと切ってきたんじゃないかというビジュアルで、苦かったら食べ切れる気がしないなと身構えてしまった。けれど食べてみると不思議なほど無味。葉っぱを食べている感覚ではあるんだけど、エグいとか筋っぽいとか一切なくて、味わってみればほのかに淡い香りがして美味しい。今までの山菜イメージは、道の駅で出てくる山菜そばの味のしないコリコリとした茎か、衣の味しかしない葉っぱの天ぷらだったのだけど、『美味しい山菜』ってあるんだなぁと感動した。
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因みにお赤飯も小豆甘くて美味しかった。お赤飯も豆がもそっとして、ごま塩かけて辛くして食べるもののイメージだったけど、甘すぎない桜餅くらいの感覚で食べやすいんだなと思った。

ご飯を食べながらおばあちゃんと話をした。静かで、サービスもしっかりしていながら料金もそれ程高くないこの温泉街はやはり『穴場』であったが、穴場であり続ける苦労とか理由もあるようだった。気に入って何度も来てくれる常連客もいる一方で、穴場、つまりまだ同業他社の手が入っていないと言うことで新しい施設の立地場に目をつけられることもあって、まぁ色々あったりするらしい。それを聞くと(僕のTwitterはさして気にしている人が少なさそうとはいえ)ツイートを控えようかなと思ったり、ブログに出すかどうかも気が引けたりもした。

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手元に長野の新聞も用意されていたので読んでも見たが、人離れや移住民とのあれこれ等、噂で聞いていたことはどうやら本当のことらしいと分かってしまった。だからと言って今後長野との付き合い方が変わるわけでもない。今後も何度も遊びに行くとは思うが、そこに住んでいる人たちは色々あるらしい。大変だなぁ。

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大変といえば、いや実際は大変そうではなかったけど、この宿は先程から出迎えたりご飯を用意してくれているおばあちゃん1人で作業をしているようだ。部屋の無料Wi-Fiの事まで理解しているのだからしっかりしている。偶に親族からの手伝いがあったり、運営に関しては後ろが居るような話をしていたけど、5、6組は泊まれそうな二階建ての建物で、受付をしてご飯を作り、風呂やトイレを掃除して、給水給湯器にインスタントコーヒーなどの用意もしてある。

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『もういつまでやれるか分からんで、うちらは来たお客さんもてなすだけでええ』と言っていたのは間違いないんだろう。

 

何となく食器を台所に運ぶのを手伝ったりなんかしてから、ちらりと風呂が空いているのを確認して部屋に戻る。大浴場と小浴場ふたつあって、入り口の利用中の札がひっくり返っていなければ空いていると言う事。入っている時はひっくり返しておく。取り敢えず広いに越したことはないから大浴場の方を使わせてもらおうと思って、空いているようなので部屋からタオルを持ってくることにする。

札をひっくり返して、ガラガラ引き戸を開けて。実は真後ろはもう一つの食事スペースになっていて、先ほどまで夫婦がもてなしを受けていた。食事のテーブルが玄関直結と風呂直結。これだけ聞くとリフォームの匠案件な気もするけど、山奥の隠れ湯に来て野暮なこと。とはいえ食事している人がいる前で堂々風呂に入っていく度胸はないが。

脱衣所には化粧水や乳液やヘアオイル等々男女お構いなく使うものがひとしきり置かれていて、全部用意してくれてるんか…と感心してしまう。更に扉を開けると『大きなお風呂場』がある。パパとチビ2人くらいがちょうど良いくらいの洗い場と浴槽だろうか。シャワーは一つしかないので、野郎同士で来ていたら掛け湯だけで入ってしまうんじゃなかろうか。

 

湯船に浸かって高めの天井みると、今日のここまでの道のりを思い出す。

始まったばかりのGW。ようやく再訪できた嬬恋で久々にコメットさんと走って写真を沢山撮って。いつも通りビジホじゃないから不安だった民宿も、来てみれば悪くない。この場所選んだことも、この宿を選んだことも、我ながら良い引きだった。婚活、GWが終わったらまた再開しよ。転職どうすっかなぁ、やっぱりバイクと関わり続けたいような…。

いつもの泊まりツーリングならならそうやって1人で1時間以上風呂でぼーっとしているのだが、今日は30分経たないくらいで早々に出てしまった。今日も『一人旅』ではあるのだけど、日中はコメットさんと、さっきまではおばあちゃんと話していたからだろうか、1人で風呂に入ってることに若干の寂しさを覚えたのかもしれない。

 

部屋に戻ると外は真っ暗。相変わらず自然の音しかしなくて安らぐ。山間の街灯もない温泉街なので、星がよく見えそうだとは思いつつ、今日は川のせせらぎをBGMにぼーっと座椅子に座っているだけで十分な気がする。テレビをつけるのも野暮だと思ってそのまま。良い時間だった。

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取り敢えず買ってきたお菓子を食べたら、歯を磨いて寝よう。

 

続く

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